映画【女神の見えざる手】の秘められた動機《ネタバレ解説》

映画【女神の見えざる手】の秘められた動機《ネタバレ解説》

映画【女神の見えざる手】の秘められた動機《ネタバレ解説》

どうも。世界のカルチャーを探検しているSai(@saisei_to_hakai)です。

あなたは『女神の見えざる手』という映画を見ましたか?

「ロビイスト」という職業がどういうものか知れるし、ストーリーは半沢直樹的なので楽しく見れるんですが。ずーっと引っかかってることがあって。

彼女の「手法」じゃなくて、完全に空白な「動機」の部分が謎なのです。

というわけで、2016年の映画【女神の見えざる手】について解説します。

シン
美術ファン歴30年の僕がお伝えするよ!

映画【女神の見えざる手】の秘められた動機《ネタバレ解説》

映画【女神の見えざる手】の秘められた動機《ネタバレ解説》

【女神の見えざる手】

  • 2016年のアメリカ映画
  • 監督:ジョン・マッデン
  • 主演:ジェシカ・チャステイン

【女神の見えざる手】あらすじ

ヒロイン主人公は、病的なほど仕事に没頭する、やり手のロビイスト(政治的に呼びかける仕事してる人)。

ある日、全米ライフル協会の会長(のようなお偉いさん)から「銃規制されないように、女性票を増やしたい」と仕事依頼を受ける。が、これを一笑。

勤めてる大手の会社を辞め、チームを引き連れ小会社に移り、反対に銃規制支持に乗り出し。真っ向勝負。という内容。

【女神の見えざる手】解説《ネタバレなし》

【女神の見えざる手】解説《ネタバレなし》

「ロビー活動」って耳にしたことはあれど、政治に疎い僕のようなもんは、そんな職業があること、それが実際何やるのかすら知らずに見ていた。

冒頭のセリフにソクラテスが出てくる。「人々を惑わしたとして、罪を問われながらも。不条理な体制に反論し、信念を貫く」っていうのはそのまま映画の内容を暗示してる。

手段を選ばず。人々を巻き込んで。起訴されながら。腐敗した体制をひっくり返すため、何が何でも勝利を目指す頭脳戦が展開されてくわけだ。

銃乱射事件の当事者だった部下も利用して、世の声を動かしてゆく。

アメリカの仕組みをよく知らないのでちょっと難しいものの「やられたらやり返す、倍返しだ!」なエンタテイメントとして楽しめる。

スピーディーな会話と内容の難しさはヒロインのアイアンレディーっぷりになんとか引っ張ってってもらい。「おおーっ!」っとなる展開で、面白かったんだが。

引っ掛かるものがあったので。翌日もう一度観た。観終わって、半日を費やすくらい考え込んでしまった。

【女神の見えざる手】ネタバレあり解説《彼女はなぜあの人物になったのか》

【女神の見えざる手】ネタバレあり解説《彼女はなぜあの人物になったのか》

さてここから。「これから観てみようかな」って人は読まないでもらいたいのですが。

今なお現在進行形なアメリカ銃規制の問題を取り扱いつつ、戦う女性の大逆転劇、というだけでも、「どうやって?」の部分で十分楽しめる映画ではある、が。

「この映画すげぇ」となった一番の部分は、「どうして?」の部分なのです。

どうして、このヒロインは薬飲んでまで仕事に没頭するのか。どうして、投獄されてまで勝利を目指して戦ったのか。

「どうして?」が映画内では、ほぼ触れられていない。どころか、焦点すら当てられていない。意図的に排除してるのではないか?とすら感じ。その暗がりに目を向けると、「この人、過去に何かあったんじゃないか?」と。

もしかしたら、銃がらみの事件と何か因縁があった、という裏設定があるのではないか。

部下が「高校銃乱射事件に居合わせた生徒だ」と調べたんじゃなく、元から知っていたのでは?とすると。このヒロインは、同じ銃事件の被害者なのではないか。

映画内でモデルにしてるのは1998年のコロンバイン高校乱射事件と思われる。

実際のコロンバイン高校の事件を調べると、亡くなったのが、容疑者の2名、生徒12名、そして教師1名。

ヒロイン主人公は、亡くなった生徒の母親だった?もしくは教師の配偶者だった?という明かされない裏設定が?

まさか加害者の母親?贖罪のための戦いか?というのも浮かんだが、映画内での細かいやり取りを見るとそっちは無いかなと。。

今も子供いない独身だから、おそらく配偶者の方か。と、これはあくまでも推測で、ヒロインが戦う動機は映画内では一切明らかにされない。

しかしもろもろの仕草、セリフ、表情。部下が当事者だと指摘したこともそうだし、ライフル協会会長の提案に爆笑したり、「幸せな家庭をイメージする」ために男を買ったり、事件の被害者だったのなら腑に落ちることがいろいろある。僕がアメリカの仕組み知ったるアメリカ人なら、もっと細かいとこまで気づけそうな気もする。

被害者だったのだとしても、本人は一切言わない。それを公表したら不利に働く、と見たのか、被害者として立たせた部下とのバランスからか。ただ自分の心が抉られそうで怖かったか。たぶん勝つために「被害者側の人」と見られるのを避けた、というセンが強いと見た。

映画内にそんな描写は一切無いが、冒頭に触れていたソクラテスが再び妖しく光を放つわけですよ。

自分では何も書かずして死んだソクラテスと、それを表した弟子のプラトン。この関係性が、主人公と部下の関係までも暗示していたのではないか。

もしそうなのだとしたら。この映画は、裁判の勝ち負けをエンタテイメントとして見せ、その根っこにある心の部分は観る人の推察に委ねられている。

ストーリーを描く上で一番大事な「心」の部分がすっぽり抜けているのだ。観る側が、想像して作り出したピースをはめ込まないと、全体が完成しないっていう。

観客を信じて、一番大事なところを委ねる。その勇気。観る側への信頼。計算。その余白。
こういった作品の真意をこうして暴くこと自体、無粋、とわかりつつも。誰かに言いたくなっちゃう秘された真意。

どんでん返しのために「隠された手法」、と同時に「秘められた動機」。それが『女神の見えざる手』なんじゃないかと。

しかし、どの解説にもそんな話はなかったので、単に妄想の話をした可能性大。すまん。

ただ、そういう裏設定があると思って観たほうが、ラストの表情が一段と深み増すことは確か。

映画【女神の見えざる手】まとめ追記

映画【女神の見えざる手】まとめ追記

一点だけ追記。銃乱射事件を引き合いにしてエンタテイメント作品を作る、他にも、実際の事件からインスパイアされた作品、悲しい事件を扱って作品を作り、興行収入を得る、というものはたくさんある。

遺族からしたら「そんなもの観たくない」というのは当然わかる。

でも、愚かしさには何らかの形で働きかけないといけない。

フィクションの力でリアルな世界に影響を与えられるのが、歌や物語のすごいとこじゃないか。というわけで。

あくまでもこの映画が、そういった働きから作られたフィクションだというのは、観ればわかる。

結局何が言いたいのかというと、こんだけの長文を書かせるエネルギーを持った映画だった、ってことです。

他の映画・映像についてはこちらのページにまとめています↓

>>>【映画】映像カルチャーのページ《目次》

Twitter(@saisei_to_hakai)では、気になるカルチャーについてつぶやいています。レアな情報を流したりするのでフォローしといてください。